日本人ばかりでなく、海外の人にも人気が高い伊藤若冲。裕福な家庭に生まれ、恵まれた環境で絵を描くことを許された彼の作品には、光と色彩に対して、驚くほど様々な挑戦がなされています。東京都美術館で開催されている、生誕300年記念の若冲展で、日本の伝統文化とテクノロジーの融合について考えました。
緻密な描写と、ユーモラスな動物の表現で有名な若冲。10年の歳月をかけて完成された30幅の動植綵絵。中でも老松白鳳図は、無数に描かれた真っ白い流線形の羽根の上に、宝石が散りばめられているようにきらきらと輝いています。まるで現代アートのようなポップな赤や緑のハートからは、鳳凰の鼓動が聞こえ、今にも火の鳥となって空高く舞い上がっていきそうです。
今回の若冲展では、テクノロジーとの融合が試みられています。江戸時代のデジタル画とも呼ばれる、鳥獣花木図屏風をモテーフにした、チームラボによるデジタルアートNirvanaでは、コンピュータグラフィックスによって動物たちが動き出します。また、入り口近くでは、超高精細8K映像に、若冲の緻密で繊細なタッチが映し出されています。
若冲が生前、「千年後に自分の絵を理解してくれる人を待つ」という言葉を残したように、肉眼では認識できない、脳の中で認識させる「混色」や、その緻密な描写は、超高精細8K映像の巨大なスクリーンに映し出されることで、ようやく理解できるのかもしれません。日本の最先端のテクノロジーと伝統文化の融合によって、日本を訪れた海外の人に驚嘆と喜びを与え、人間の持つ能力の偉大さを感じてもらう。そんな至福のひとときこそが、最高のおもてなしになるのではないでしょうか。
生誕300年記念 若冲展
The 300th Anniversary of his Birth: Jakuchu
2016年4月22日(金)~5月24日(火)まで、東京都美術館にて開催中
高橋利枝(メディア・エスノグラファー、早稲田大学文学学術院教授)