利枝のアート探訪No.6『若冲展: 世界に羽ばたく日本の伝統とテクノロジー』

日本人ばかりでなく、海外の人にも人気が高い伊藤若冲。裕福な家庭に生まれ、恵まれた環境で絵を描くことを許された彼の作品には、光と色彩に対して、驚くほど様々な挑戦がなされています。東京都美術館で開催されている、生誕300年記念の若冲展で、日本の伝統文化とテクノロジーの融合について考えました。

Jakuchu緻密な描写と、ユーモラスな動物の表現で有名な若冲。10年の歳月をかけて完成された30幅の動植綵絵。中でも老松白鳳図は、無数に描かれた真っ白い流線形の羽根の上に、宝石が散りばめられているようにきらきらと輝いています。まるで現代アートのようなポップな赤や緑のハートからは、鳳凰の鼓動が聞こえ、今にも火の鳥となって空高く舞い上がっていきそうです。

今回の若冲展では、テクノロジーとの融合が試みられています。江戸時代のデジタル画とも呼ばれる、鳥獣花木図屏風をモテーフにした、チームラボによるデジタルアートNirvanaでは、コンピュータグラフィックスによって動物たちが動き出します。また、入り口近くでは、超高精細8K映像に、若冲の緻密で繊細なタッチが映し出されています。

若冲が生前、「千年後に自分の絵を理解してくれる人を待つ」という言葉を残したように、肉眼では認識できない、脳の中で認識させる「混色」や、その緻密な描写は、超高精細8K映像の巨大なスクリーンに映し出されることで、ようやく理解できるのかもしれません。日本の最先端のテクノロジーと伝統文化の融合によって、日本を訪れた海外の人に驚嘆と喜びを与え、人間の持つ能力の偉大さを感じてもらう。そんな至福のひとときこそが、最高のおもてなしになるのではないでしょうか。

生誕300年記念 若冲展
The 300th Anniversary of his Birth: Jakuchu
2016年4月22日(金)~5月24日(火)まで、東京都美術館にて開催中

高橋利枝(メディア・エスノグラファー、早稲田大学文学学術院教授)

About Toshie Takahashi

Toshie Takahashi is Professor in the School of Culture, Media and Society, as well as the Institute for Al and Robotics,Waseda University, Tokyo. She was the former faculty Associate at the Harvard Berkman Klein Center for Internet & Society. She has held visiting appointments at the University of Oxford and the University of Cambridge as well as Columbia University. She conducts cross-cultural and trans-disciplinary research on the social impact of robots as well as the potential of AI for Social Good. 【早稲田大学文学学術院教授。元ハーバード大学バークマンクライン研究所ファカルティ・アソシエイト。現在、人工知能の社会的インパクトやロボットの利活用などについて、ハーバード大学やケンブリッジ大学と国際共同研究を行っている。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会テクノロジー諮問委員会委員。】
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