平昌オリンピック2018も閉幕を迎え、パラリンピックが始まります。世界各国の選手による身体の極限への挑戦やパフォーマンスの美しさ、国を超えた友情など、私たちに多くの感動を与えてくれました。また、開会式からプロジェクションマッピングやドローンなどのテクノロジーを駆使して、オリンピック開催におけるテクノロジーの可能性を示してくれました。あと2年に迫った2020年東京オリンピックでは、ソフトレガシーとして私たちは一体何を残すことが出来るのでしょうか?
ソフトレガシーとしてのつながり
今回も前回同様、若者とテクノロジーに関する調査結果(n=301;平均年齢20.3歳;男女比48.5%: 51.5%;関東地方)1から、東京オリンピックの意義について考察したいと思います。東京オリンピック・パラリンピックに関して考えられる21のイベントを提示したところ、すべての選択肢において、4割以上の若者が「参加したい」と答えています。そして全21中15以上のイベントに対して、過半数以上の若者が参加ニーズを持っています(図1)。このことから若者のオリンピック・パラリンピックに関するイベントへの参加意識が高いことが伺えます。
最も多かった回答としては、8割以上の若者が「世界各国の若者による、食を通して交流を行うワールドフードフェス」(83.1%)を選択しています。また6割以上の若者が「2020年東京オリンピック新競技を体験できるイベント」(66.7%)、「世界各国の若者がスポーツを通して交流するイベント」(65.1%)、「観光地だけでなく普段の日本人の生活を楽しんでもらうボランティアツアー」(62.8%)、「オリンピック・パラリンピックにおけるボランティア活動」(61.5%)を選択しています。この調査結果から、世界各国の若者たちと交流出来るイベントやボランティア活動などに参加意欲が高いことがわかります。
2020年東京オリンピックとこれまでのオリンピックとの違いは、ソーシャルメディアやスマートフォンの普及によって、日本国内ばかりでなく、世界の人々と半永久的なつながりを持つことができることです。そのため東京オリンピック・パラリンピック開催期間中ばかりでなく、開催前の文化交流のためのイベントや開催後の異文化理解やつながりは、個人にとっても、また社会にとっても大きな財産となるでしょう。イベントの企画や参加、ボランティア活動を通じて、新たな出逢いやつながりが生まれ、異なる価値観や文化を共有し、お互いを理解するきっかけとなれば、このような文化を超えた「つながり」こそが2020年東京オリンピックのソフトレガシーと言えるのではないでしょうか?
Society5.0: 東京オリンピックと日本社会のパラダイムシフト
イギリスのEU離脱やアメリカのトランプ大統領によるアメリカ第一主義、国際的なテロ組織や難民問題など、世界的にナショナリズムが高揚しています。グローバル世界や未来に対する不安感が高まる中、6割以上の若者たちが「2020年オリンピックを機に、日本は変わる。」(62.4%)と答えていることは、東京オリンピックに対する期待感の高まりを示すものだと思います(図2)。
1964年の東京オリンピックでは、日本の技術力を用いて「科学のオリンピック」とも呼ばれ、戦後の復興を世界に示すことに成功しました。2020年の東京オリンピックでは、より洗練されたおもてなしを通じてスマートな日本(Society5.0)を体験して欲しいと思います。洗練された旅館では、客がサービスを受けていることも気づかない心地いい時間と空間を過ごせるように、テクノロジーが主体となるのではなく、選手や国内外の観客、ボランティアなど全ての人々を影で支えるようなスマートなオリンピック。例えば、AIによって日々進化している多言語翻訳アプリは、言葉の壁を越え、空港、駅、レストラン、ホテル、病院、タクシーなどあらゆる場面でサポートし、コミュニケーションを通して、異文化理解を深めるきっかけとなるでしょう。
2020年東京オリンピックはまさに今日私たちが直面しているカオス的な歴史的背景において、日本人が世界の人とつながり、理解し合うための大きなチャンスとなるでしょう。ソーシャルメディアによって可能となった半永久的な「つながり」によって芽生えるコスモポリタンな価値観とともに、パラダイムシフトを起こすきっかけとなるならば、それこそがまさにソフトレガシーとして後世に残せるものなのではないでしょうか。
注
1. 高橋利枝「ICTの利活用による地域の活性化に関する調査研究」NTTグループ委託研究、2017年1月。
高橋利枝(メディア・エスノグラファー、早稲田大学文学学術院教授)