IAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会)参加報告@Nextcom vol.24(KDDI総研)

2015年7月12日から16日の間、モントリオールにおいて、IAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会)が開催された。 「コミュニケーションの力」をテーマに、 情報メディアのさまざまな問題について活発な議論が行われた。

◆ IAMCRモントリオール大会の概要

国際メディア・コミュニケーション学会(International Association for Media and Communication Research: IAMCR)は、1957年 12月にパリのユネスコで設立さ れた、情報メディアに関して世界で最も由緒ある国際 学会です。設立当初は15カ国を代表する情報メディア の専門家で構成されていましたが、現在では世界100 カ国以上の学会会員で構成されています。情報メディ アに関する社会的、政治的、技術的、政策的、文化的 問題など多岐にわたってアプローチすることにより、 メディア・コミュニケーション研究をグローバルに発 展させていくことを目的としています。

基調講演22015年モントリオール学会大会は、“Hegemony or Resistance? On the Ambiguous Power of Communication” というタイトルで、「コミュニケーションの力」をテー マに開催されました。世界各国から 1,300人以上が参 加し、数百に及ぶパネルセッションが組織され、活発 な議論が行われました。 オープニングの基調講演は、ユネスコの知識社会部 門のディレクターである Indrajit Banerjee 氏が行いま し た。Banerjee氏 は“Connecting the dots: UNESCO’s comprehensive study on Internet-related issues”というタイトルで、4 つのキー概念――アク セス、表現の自由、プライバシー、倫理――に関して、現在ユネスコが行っているプロジェクトについて講演 されました。 同講演の中で紹介された理論物理学者のSteven Hawking博士からのビデオは、特にインパクトのある ものでした。博士は、このビデオの中で、3日間機械の 不具合でコミュニケーションを行うことができなかっ たときに、いかに自分が無力に感じたかということを 話されました。現代社会において、「コミュニケーショ ンの力」がいかに大きなものか、再認識させられまし た。

◆若者とソーシャルメディアのかかわりにおける課題

理事会1私は、IAMCR のオーディエンス研究部門の副部門 長として、2010年に選出されて以来、学会運営に携わっ てきました。今回の学会大会でも、理事会やビジネスミーティングに出席し、今後の学会運営に ついて話し合いました。また、オーディエンス研究部 門では、4 つのセッションの司会を務めたり、研究論 文の発表を行いました。

私が司会を務めた“Young people as audiences”と いうセッションでは、インターネットによるコミュニ ケーション・ランドスケープの変化について、ブラジ ル、ノルウェー、スイス、スペインの研究者たちが研究発表を行いました。先進国、後進国を問わ ず、若者がスマートフォンやソーシャルメディアにア クセスすることは、もはや珍しいことではなく、文化 の差異を超えて多くの類似性を見いだすことができま す。このセッションでは、特にスマートフォンやソー シャルメディアへの過度の依存から、ライフスタイル が変化し、睡眠や健康に与える問題など、リスク対処 に向けた議論がなされました。

オーディエンス1また、“TV and its audiences: changing configurations” というセッションでは、2 スクリーン、3 スクリーン など、テレビ視聴時のソーシャルメディアの同時利用 などについて、ドイツ、ベルギー、デンマークの研究 者たちが発表しました。ベルギーからは、スポーツ 番組視聴中にスマートフォンでスポーツ・アプリや Twitter とマルチタスクしている様子が報告されまし た。一方、ドイツからはテレビ番組に視聴者のソーシャ ルメディア上でのコメントがどのように挿入されてい るかなど、興味深い発表がなされました。

オーディエンス2個 人 発 表 で は、“Audience engagement and self- creation: young people and mobile social media in Japan, UK and US”というタイトルで論文発表を行い ました。これまで私は日本、アメリカ、イギリスにお いてインタビュー調査を行い、若者とメディアとの 多様なエンゲージメント(かかわり)から創発する、 新たな機会とリスクについて明らかにしてきました。 今回の発表では、「なぜ若者たちはソーシャルメディ アに投稿したり、YouTubeにビデオをアップするの か?」、ソーシャルメディアによる印象管理や自己表 現について、自己承認欲求と自己証明欲求から説明を しました。そして、このような自己にかかわるエンゲー ジメントから、グローバル時代、デジタル時代におけ る「自己創造」について考察しました。発表後も、セッ ションに参加していたイギリスやスペイン、アメリカ などの研究者たちと、日本と西欧の違いなど刺激的な議論が続きました。

◆コラボレーションの計画

レセプション今回の学会大会参加には、もう一つ重要な任務があ りました。日本マスコミュニケーション学会が IAMCR とのコラボレーションを希望していることから、Janet Wasko 会長や他の理事たちと、両学会のコラボレー ションの可能性に関して打ち合わせをしました。そし て来年、英国レスター大学で開催される学会大会では、 日本マスコミュニケーション学会のスペシャル・セッ ションが企画されることになりました。 このように今回の学会大会への参加は、私個人の研 究活動にとどまらず、IAMCR学会大会運営、ならび に日本マスコミュニケーション学会とのコラボレー ションの企画など、大変実り多いものとなりました。 今後も微力ながらも日本の情報メディア研究の国際化 と文化理解に尽力していきたいと思います。学会大会 への参加にあたり、公益財団法人 KDDI 財団より貴重 なご支援(海外学会等参加助成)をいただきましたこ と、心より深く感謝いたします。

IAMCR参加報告@Nextcom vol.24

 

About Toshie Takahashi

Toshie Takahashi is Professor in the School of Culture, Media and Society, as well as the Institute for Al and Robotics,Waseda University, Tokyo. She was the former faculty Associate at the Harvard Berkman Klein Center for Internet & Society. She has held visiting appointments at the University of Oxford and the University of Cambridge as well as Columbia University. She conducts cross-cultural and trans-disciplinary research on the social impact of robots as well as the potential of AI for Social Good. 【早稲田大学文学学術院教授。元ハーバード大学バークマンクライン研究所ファカルティ・アソシエイト。現在、人工知能の社会的インパクトやロボットの利活用などについて、ハーバード大学やケンブリッジ大学と国際共同研究を行っている。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会テクノロジー諮問委員会委員。】
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