「若者とモバイル・メディア」について国際コミュニケーション学会で発表をしました1。今回の発表では、携帯電話によって可能となった「絶え間ないつながり」について、2000年から実施している若者とメディアに関する調査結果から報告をしました。
インタビューに協力してくれた若者たちの多くは、寝ている間も携帯電話を枕元やベッドの隣に置いています。寝る直前までベッドの中で、ラインやフェイスブック、ツイッターなどのソーシャルメディアをチェックしています。そして寝ている間も着信があると暗がりの中、電気も付けずに携帯電話の明かりで返信やコメントをしたりしています。携帯電話のアラームをセットして夜眠り、朝目を覚ますと、まず最初にすることはアラームを止めるついでにベッドの中で携帯電話のメッセージをチェックしています。中には、お風呂の中でも携帯電話を利用しているという人もいます。
例えば、19才女子大生ユキさんは携帯電話を枕の下に置いて寝ています。
ユキ:携帯電話は枕の下において、バイブで。
リサーチャー:メッセージが来たら起きないの?
ユキ:そうなんですよ。夜中にきて開けてたりしてて。でも覚えてないんです。
このような携帯電話による「絶え間ないつながり」は日本ばかりでなく、私がインタビューを行ったアメリカやイギリスでもみられました。しかし、日本人の携帯利用について理解するためには、日本の人間関係やコミュニケーションに注目する必要があると思います。中でも特に、中根千枝氏の「ウチ」や山本七平氏の「空気」の概念は、1960年代70年代に論じられたものですが、現在、デジタル時代のコミュニケーション研究の領域において、再び注目されています。伊藤陽一氏(2010)は「空気」概念を次のように定義しています。
「空気」は具体的な「場」あるいは「状況」のもとで「発生する」。すなわち、「空気」とは、自分は今、この状況のなかで、どのように振舞うべきか、特定の問題や争点に関してどのような判断をして、どのような発言をすべきか、といったことに対して働く圧力なのである。(102)
私は以前、Mixiに関する研究の中で、複数の異なる「ウチ」に属するマイミクを登録することにより、すべての「ウチ」で受け入れられるような「空気」を読まなければならないため、何も書けなくなってしまう「Mixi疲れ」について言及しました(高橋, 2009)。原田陽平氏は「ケータイ・ネイティブ」の特徴として、情報収集より人間関係の維持・拡大を重視し、SNSの日記にコメントやメールの即レスなどケータイによるつながりによって、「噂話・陰口が多く、出る杭は打たれ、他人の顔色をうかがい、空気を読むことが掟とされる、かつて日本にあった村社会が若者の間で復活したのです」(原田, 2010, p.246)と述べています。また、木村忠正氏(2012)は、音声通話、ケータイメール、Mixi、ブログなどに異なる空気(空気をよむ圧力のレベル)が存在することを指摘しています。
今回の学会発表では、TwitterやLineなど新たなソーシャルメディアを含んだモバイル・コミュニケーションによる「絶え間ないつながり」によって、「ウチ」や「空気」のような日本文化の社会的規範が、若者たちの間で再び強化されていく様子についてお話しました。
注釈
1.Takahashi, T. “Japanese Youths Engaging with Mobile ICTs: Looking ahead from the Past Ten Years”. ICA 2013 Communications and Technology Division: Mobile Communications 10th Anniversary Pre-Conference Workshop, London, UK, June 2013.
参考文献
原田陽平「近頃の若者はなぜダメなのか:携帯世代と『新村社会』」、光文社新書、2010年。
伊藤陽一「社会的圧力としての『空気』」、小川(西秋)葉子、川崎賢一編著『〈グローバル化〉の社会学』、恒星社厚生閣、2010年。
木村忠正「デジタルネイティブの時代: なぜメールをせずに「つぶやく」のか」、平凡社新書、2012年。
高橋利枝「デジタル・ネイティヴと日常生活―若者とSNSに関するエスノグラフィー―」、『情報通信学会誌』第92号,pp.15-28, 2009年12月。