利枝のアート探訪No.5 『ピクサー展: アニメーションとテクノロジーの共創』

トイ・ストーリーやファインディング・ニモなど、ピクサーの映画には、いつも夢や冒険があり、登場するキャラクターは個性的で生き生きとしています。このようなコンピューターアニメーションは、どのようにして創られているのでしょうか?東京都現代美術館で開催されている、ピクサーのスタジオ設立30周年記念展に行ってきました。

Pixarコンピューターアニメーションと言うと、コンピューターが自動的に制作しているイメージがあります。しかし「コンピュータが映画を作るのではありません。…人こそが、ピクサーで創り出されているあらゆるものの『命』なのです」(エリーズ・クレイドマン)。クレイドマンの言葉通り、ピクサー展では、手描きのドローイングやクレイモデル(粘土の模型)などが所狭しと飾られ、制作者たちの熱意や遊び心が伝わってきます。

会場の入り口には、ピクサーの歴史とともに、設立者の1人であるジョン・ラセターの「芸術はテクノロジーの限界に挑み、テクノロジーは芸術にひらめきを与える」という言葉が掲げられています。ピクサーが設立された当時、コンピュータグラフィックスはまさにイノベーションでした。21世紀では、さらに進化したテクノロジーが、再びアニメーションを大きく変えようとしています。

AI(人工知能)と人間が共同執筆した小説が評価されましたが、映画の分野でも、脚本家がAIと一緒にストーリーを書く日も遠くないかもしれません。また、Netflixのようにビッグデータを活用したり、映画を観ている人とインターラクティブにストーリーが展開されたりしたら、自分だけのオリジナルな映画が創れるかもしれません。人間とテクノロジーの「競争」ではなく、「共創」によって、人びとが幸せになり、笑顔あふれるような作品に出逢える日を楽しみにしています。

ピクサー展 web site2016年3月5日(土)-5月29日(日)まで東京都現代美術館にて開催中

高橋利枝(メディア・エスノグラファー、早稲田大学文学学術院教授)

About Toshie Takahashi

Toshie Takahashi is Professor in the School of Culture, Media and Society, as well as the Institute for Al and Robotics,Waseda University, Tokyo. She was the former faculty Associate at the Harvard Berkman Klein Center for Internet & Society. She has held visiting appointments at the University of Oxford and the University of Cambridge as well as Columbia University. She conducts cross-cultural and trans-disciplinary research on the social impact of robots as well as the potential of AI for Social Good. 【早稲田大学文学学術院教授。元ハーバード大学バークマンクライン研究所ファカルティ・アソシエイト。現在、人工知能の社会的インパクトやロボットの利活用などについて、ハーバード大学やケンブリッジ大学と国際共同研究を行っている。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会テクノロジー諮問委員会委員。】
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