2019年5月14日、アメリカのケンブリッジ。MITのウィリアム・ウリッキオ(William Uricchio)教授のラボを訪問しました。MITメディアラボは、「ディシプリンを持たない文化(antidisciplinary culture)」を理念として掲げていることが広く知られています。実際に、どのように研究プロジェクトが進められているのでしょうか?
MITメディアラボでは、建築が母体の理工系のメディアラボと、ウリッキオ先生が所属する人文社会系の比較メディア研究(Comparative Media Studies)が、一体となってプロジェクトが進められているそうです。というよりむしろ、ウリッキオ先生の忌憚のないご説明によると、工学系の研究者によって自由な発想で創られた「何の役に立つのかよくわからないもの」に、ウリッキオ先生達がアイデアを注いで、「社会の役に立つものに転換して行く」のだそうです。この「ブランディング」の作業もまた、試行錯誤を伴う結構大変な作業で、しかしながら逆にこのブランディングが成功しないと、スポンサー企業を魅了する事が出来ないそうです。
メディアラボのショーケースに並べられている美しい作品の前で、「表向きは美しいけど、裏は地味な作業なんだ」と言って、ガラス越しに見えるたくさんの作業机の上に煩雑に置かれた部品やコンピューターを指差して説明してくれました。
まさに職人の世界。MITというとキラキラした輝かしい側面ばかりが強調されますが、日本人がこれまで大切にしてきた地味な職人の世界の上に成り立っているのですね。そしてその職人達の手によって生まれたばかりの技術を社会に役立つように磨き上げるために知恵を絞る人達がいる。この両方の連携によって、キラキラしたMITメディアラボが成り立っているという事がわかりました。
MITのキャンパスには、このような創造力を刺激するような様々なアートがあります。例えば、フランクゲーリーによってデザインされたRay and Maria Stata Centerはとても有名です。私が訪問した時は、建物の中にモチーフとしてオブジェの上にパトカーが飾ってありました。このパトカーの番号がπだったり、お巡りさんがドーナツが好きなのでドーナツが上に付いてたりと、遊び心がいっぱいのキャンパスです。
オープンドキュメンタリー・ラボの創立者であるウリッキオ先生と、AIやアート、ロボット、VR、テクノロジーの過去と未来などなど、とても刺激的なお話をしているうちにあっという間に時間が過ぎてしまいました。
お忙しい中ご招待頂きまして、どうもありがとうございました。