2015年7月12日から16日の間、モントリオールにおいて、IAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会)が開催された。 「コミュニケーションの力」をテーマに、 情報メディアのさまざまな問題について活発な議論が行われた。
◆ IAMCRモントリオール大会の概要
国際メディア・コミュニケーション学会(International Association for Media and Communication Research: IAMCR)は、1957年 12月にパリのユネスコで設立さ れた、情報メディアに関して世界で最も由緒ある国際 学会です。設立当初は15カ国を代表する情報メディア の専門家で構成されていましたが、現在では世界100 カ国以上の学会会員で構成されています。情報メディ アに関する社会的、政治的、技術的、政策的、文化的 問題など多岐にわたってアプローチすることにより、 メディア・コミュニケーション研究をグローバルに発 展させていくことを目的としています。
2015年モントリオール学会大会は、“Hegemony or Resistance? On the Ambiguous Power of Communication” というタイトルで、「コミュニケーションの力」をテー マに開催されました。世界各国から 1,300人以上が参 加し、数百に及ぶパネルセッションが組織され、活発 な議論が行われました。 オープニングの基調講演は、ユネスコの知識社会部 門のディレクターである Indrajit Banerjee 氏が行いま し た。Banerjee氏 は“Connecting the dots: UNESCO’s comprehensive study on Internet-related issues”というタイトルで、4 つのキー概念――アク セス、表現の自由、プライバシー、倫理――に関して、現在ユネスコが行っているプロジェクトについて講演 されました。 同講演の中で紹介された理論物理学者のSteven Hawking博士からのビデオは、特にインパクトのある ものでした。博士は、このビデオの中で、3日間機械の 不具合でコミュニケーションを行うことができなかっ たときに、いかに自分が無力に感じたかということを 話されました。現代社会において、「コミュニケーショ ンの力」がいかに大きなものか、再認識させられまし た。
◆若者とソーシャルメディアのかかわりにおける課題
私は、IAMCR のオーディエンス研究部門の副部門 長として、2010年に選出されて以来、学会運営に携わっ てきました。今回の学会大会でも、理事会やビジネスミーティングに出席し、今後の学会運営に ついて話し合いました。また、オーディエンス研究部 門では、4 つのセッションの司会を務めたり、研究論 文の発表を行いました。
私が司会を務めた“Young people as audiences”と いうセッションでは、インターネットによるコミュニ ケーション・ランドスケープの変化について、ブラジ ル、ノルウェー、スイス、スペインの研究者たちが研究発表を行いました。先進国、後進国を問わ ず、若者がスマートフォンやソーシャルメディアにア クセスすることは、もはや珍しいことではなく、文化 の差異を超えて多くの類似性を見いだすことができま す。このセッションでは、特にスマートフォンやソー シャルメディアへの過度の依存から、ライフスタイル が変化し、睡眠や健康に与える問題など、リスク対処 に向けた議論がなされました。
また、“TV and its audiences: changing configurations” というセッションでは、2 スクリーン、3 スクリーン など、テレビ視聴時のソーシャルメディアの同時利用 などについて、ドイツ、ベルギー、デンマークの研究 者たちが発表しました。ベルギーからは、スポーツ 番組視聴中にスマートフォンでスポーツ・アプリや Twitter とマルチタスクしている様子が報告されまし た。一方、ドイツからはテレビ番組に視聴者のソーシャ ルメディア上でのコメントがどのように挿入されてい るかなど、興味深い発表がなされました。
個 人 発 表 で は、“Audience engagement and self- creation: young people and mobile social media in Japan, UK and US”というタイトルで論文発表を行い ました。これまで私は日本、アメリカ、イギリスにお いてインタビュー調査を行い、若者とメディアとの 多様なエンゲージメント(かかわり)から創発する、 新たな機会とリスクについて明らかにしてきました。 今回の発表では、「なぜ若者たちはソーシャルメディ アに投稿したり、YouTubeにビデオをアップするの か?」、ソーシャルメディアによる印象管理や自己表 現について、自己承認欲求と自己証明欲求から説明を しました。そして、このような自己にかかわるエンゲー ジメントから、グローバル時代、デジタル時代におけ る「自己創造」について考察しました。発表後も、セッ ションに参加していたイギリスやスペイン、アメリカ などの研究者たちと、日本と西欧の違いなど刺激的な議論が続きました。
◆コラボレーションの計画
今回の学会大会参加には、もう一つ重要な任務があ りました。日本マスコミュニケーション学会が IAMCR とのコラボレーションを希望していることから、Janet Wasko 会長や他の理事たちと、両学会のコラボレー ションの可能性に関して打ち合わせをしました。そし て来年、英国レスター大学で開催される学会大会では、 日本マスコミュニケーション学会のスペシャル・セッ ションが企画されることになりました。 このように今回の学会大会への参加は、私個人の研 究活動にとどまらず、IAMCR学会大会運営、ならび に日本マスコミュニケーション学会とのコラボレー ションの企画など、大変実り多いものとなりました。 今後も微力ながらも日本の情報メディア研究の国際化 と文化理解に尽力していきたいと思います。学会大会 への参加にあたり、公益財団法人 KDDI 財団より貴重 なご支援(海外学会等参加助成)をいただきましたこ と、心より深く感謝いたします。